玉輝虫

   玉輝虫

半透明の

美しい水色の羽根の玉輝虫

海辺のゆるやかな波のうつ砂地の奥

ヒラバナという白い花の群生地に生息した

 

玉輝虫・・・・・・

玉輝虫は言葉をもっているという事だった

穏やかな明るい日を好んで

ひらめきささやいて舞い

ヒラバナの蜜を吸って生きている

知る人だけが知る話

 

水色に飛ぶ虫の声とはどんなもので

そして一体何を言っているのか

聞いても誰も知らなかった

 

私はその言葉を聞きたかったし

できたら生きたまま採ってもみたかった

皆、願うことだと信じた

 

玉輝虫の噂をひそかに伝え聞いた私は

あるひととふたり

滅多に行き当たれないというそこを捜し当てた

 

興奮と緊張の中

砂地を這って近づいた

 

玉輝虫はサラサラと羽根の音を

いかにも涼しげに立てて

そして確かにその他に

何かひそかな声で話している気配があった

私たちはいっそう身を縮め震えながら近づいた

 

なのに玉輝虫は

私たちの視線を感じたとたん

ぱりんとガラスの砕ける音で

命を絶ってしまった

 

それの意味することだけ伝わらなかったのは

人のさびしさだろうか

 

玉輝虫ははらりと砕けて砂に落ちると

一筋の赤い血が

糸のように海へ流れて行った

 

玉輝虫はそのときふたついたから

二筋の血が

明るい広々とした砂地の上

細く細くまっすぐ海へ流れて行った

 

私たちはすべて気付き声を失っていた

 

私たちはその亡骸を

一匹ぶんずつ拾って胸深くにしまうと

しばらく見つめ合い

一生一緒にいようと誓っていたけれど

それきり

黙ったまま別れた

 

              (詩集 ファンタジアより)